目次
- はじめに
- Snowflakeとは何か ── Data Cloudの基盤技術と強み
- FY2026第1四半期決算から読み解く成長エンジン
- AI戦略の進化:Cortex・Arctic・NVIDIA提携
- PostgreSQL強化へ ── Crunchy Data買収の真意
- 競合環境:Databricksとの「AIデータベース戦争」
- 今後の課題と展望
- 用語解説
1. はじめに
生成AIブームは、データ基盤の在り方そのものを再定義しつつあります。その中心で存在感を増しているのが Snowflake。クラウドネイティブなデータプラットフォーム「AI Data Cloud」を掲げ、データの格納・共有から分析、AIアプリ開発までを単一基盤で完結させる構想を加速させています。
本稿では、最新決算とAI関連ニュースを踏まえ、Snowflakeの成長ドライバーと今後の戦略を多角的に解説します。
2. Snowflakeとは何か ── Data Cloudの基盤技術と強み
Snowflakeは複数のクラウドをまたいで利用可能なマルチクラウド(AWS・Azure・GCP)対応の “共有ディスク&分離コンピュート” アーキテクチャを採用し、スケールアウトと従量課金を両立します。大きな特徴は次の4点です。
強み | 解説 |
クラウドネイティブ設計 | ストレージとコンピュートを分離、リソースを弾力的に最適化 |
リアルタイムデータ共有 | 企業間でセキュアにデータをやり取りできる「データシェアリング」機能 |
マルチクラウド/クロスクラウド | 異なるクラウド間でも単一クエリで統合分析が可能 |
AI連携の拡張性 | 生成AIモデルの学習用データレイクから推論ワークロードまで一気通貫(Cortex) |
Snowflakeは金融、製造、小売、ヘルスケア、テック企業などフォーチュン500企業を含む幅広い顧客基盤を持ち、年間1億ドル超を支払う大口顧客は約600社へ拡大しています。
3. FY2026第1四半期決算から読み解く成長エンジン
2026年度Q1(2025年2–4月)のハイライトは以下のとおりです。
- 売上高:10億ドル(前年同期比+26%)
- プロダクト収入:9.97億ドル(+26%)
- ネットリテンションレート:124%
- 1億ドル以上の顧客数:606社(+27%)
株式報酬費を含むGAAPでは営業赤字4.47億ドルですが、株式報酬を除くNon-GAAPでは9,170万ドルの営業黒字を確保。営業キャッシュフローも黒字を維持しています。
売上成長率が20%台に緩やかに着地した一方で、**RPO(残存パフォーマンス義務)**が67億ドル(+34%)と継続的な受注残を示し、“消費型ビジネスモデル” の粘着力が改めて浮き彫りになりました。
4. AI戦略の進化:Cortex・Arctic・NVIDIA提携
4-1. Cortex AI:SQLで呼び出せる生成AI
Snowflakeは2025年5月に 「Cortex AISQL」 を発表し、SQLクエリから直接LLMを呼び出せるようにしました。非エンジニアも自然言語で洞察を得る “誰でも分析可能 “が狙いです。
4-2. Arctic:オープンソースLLM
自社開発の大規模言語モデル 「Arctic」 をオープンソースで公開し、推論高速化エンジン Shift Parallelism も無償提供。企業は自社データをSnowflake内に残したまま、低遅延・高スループットの生成AIアプリを構築できます。
4-3. NVIDIAとの「AIファクトリー」構想
2024年3月にはNVIDIAとの協業を拡大し、Snowflake Cortex上で利用できるAIプラットフォーム”を提供。データの安全性を担保しつつ、GPUアクセラレーションで高性能推論を実現します。
ポイント:自社LLM「Arctic」と外部LLM(OpenAI・Anthropic・Meta・Mistral等)の“ハブ” となることで、Snowflakeは**「ベンダーニュートラルなAIデータ基盤」**を目指しています。
5. PostgreSQL強化へ ── Crunchy Data買収の真意
2025年6月、SnowflakeはPostgreSQLベンダー「Crunchy Data」を約2.5億ドルで買収すると発表しました。買収完了後は「Snowflake Postgres」としてサービス化し、データベースのPostgresをSnowflakeのサービス上でコードを書き換えることなく利用できるようになります。
Crunchy Dataは政府・金融向け高いセキュリティ要件を満たす点が評価されており、SnowflakeはエンタープライズAIエージェント時代に向けて、“トランザクションDB+データクラウド+LLM推論” をシームレスに組み合わせる戦略を鮮明にしました。
6. 競合環境:Databricksとの「AIデータベース戦争」
同じ週、DatabricksはサーバレスPostgresの Neon を10億ドルで買収。Snowflake vs. Databricks の戦いは「データウェアハウス」から「AIエージェント基盤」へと舞台を移しつつあります。
- Snowflake派:製品やサービスのガバナンス強みを活かし、Postgresを一体化して“データとAIを一元管理”
- Databricks派:提供するソフトウェア上に高速・弾力的なサーバレスDBを組み込み、“AIネイティブ開発” を前面に押し出す
急拡大する生成AI市場では、「推論コスト」「データ主権」「マルチワークロード統合」が勝敗を分ける鍵となるでしょう。
7. 今後の課題と展望
- 成長ペースの鈍化:売上成長率が20%台前半に落ち着きつつある。AI関連の新サービスで再加速できるか。
- 費用構造:従業員への株式報酬が多く、利益を圧迫している。どこまで抑えられるか。
- エコシステム競争:Databricks、GoogleやMicrosoftなど大手も似たサービスを強化しており、差別化が必要。
- 規制対応:欧州を中心にデータの国外持ち出し制限が強まる中、地域ごとの対応策が求められる。
とはいえ、Snowflakeは受注残高が大きく、開発資金には余裕があります。取引データの保存から分析、AI活用までを一つにまとめる構想がうまく進めば、企業にとって「データを扱う標準的な場所」になる可能性があります。
。
8. 用語解説
用語 | 簡易定義 |
AI Data Cloud | Snowflakeが提唱する、データ保管・共有・分析・AIモデル実行を単一基盤で実現するクラウドサービス群。 |
Cortex AI / AISQL | Snowflake上でSQLから直接LLMを呼び出し、要約・翻訳・ベクトル検索などを行う機能。 |
Arctic | Snowflake自社開発のオープンソースLLM。効率的学習と推論が特徴。 |
Crunchy Data | セキュリティ規格対応に強いエンタープライズ向けPostgreSQLサプライヤー。2025年6月Snowflakeが買収合意。 |
エージェントAI | 自律的にタスクを実行するAI。複数LLMとツールを組合せ、DBを自動作成・更新するワークロードが想定される。 |
まとめ
Snowflakeは、これまで「クラウドで動くデータの倉庫」として知られてきましたが、いまや「AIの作業場」としても存在感を増しています。「Crunchy Data」の買収で日常業務のデータも取り込み、CortexやArcticでAIの使い勝手を高める──こうした一連の動きは、企業がデータとAIをワンストップで利用できる未来を示しています。高度な用語にとらわれず、まずは「大量の情報を安全に預け、必要なときにすぐ引き出し、AIで活かす」仕組みとしてSnowflakeを眺めてみると、その価値がいっそうわかりやすくなるでしょう。
コメント